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2023/03/13

【レポート】2/28開催 UMITOPartners・水産経済新聞共催シンポジウム「若者が担う水産未来2023〜ITと漁業・流通現場〜」

 2月28日(火)に株式会社UMITO Partners・株式会社水産経済新聞社共催シンポジウム「若者が担う水産未来2023〜ITと漁業・流通現場〜」をホテルグランドアーク半蔵門で開催しました。

 海洋環境の変化や漁獲量の減少が顕在化し、水産物の産地偽装や違法・規制外流通などの問題が起きる昨今、水産資源の持続的な利用を実現し、水産業にさらなる発展を目指すに、ITの活用は不可欠とされています。本シンポジウムの開催により、次世代の水産業を担う若手漁業者と小売流通業者、IT企業および小売流通現場が考える課題と協働することで、可能になる課題解決の道筋等について議論を行い、各現場の実態と理想の未来を見据えた水産業のさらなる発展への一助とすることを目的に開催に至りました。

 第一部の基調講演では一般社団法人漁業情報サービスセンター黒萩真悟専務から水産業のスマート化の現場と今後の方向についてご講演いただき、パネルディスカッションでは次代を担う若手漁業者や水産IT企業、流通業者を交えて、漁業者が持つ情報の活用を中心に様々な議論を行いました。勝俣孝明農林水産副大臣も駆けつけ、ご挨拶をいただきました。

 第二部では漁業者を中心に、水産関連企業、国会議員などを交えた懇親会を行いました。冒頭で、北海道、千葉県、宮崎県などの各地の若手漁業者からのビデオメッセージを上映し、続いて石破茂自民党水産総合調査会長、浜田靖一防衛大臣、全国漁業協同組合連合会 坂本雅信代表理事からご挨拶をいただきました。乾杯挨拶を大日本水産会 白須敏朗会長からいただき、最後には全国漁港漁場協会 橋本牧会長から中締めの挨拶をいただきました。第一部は72名が来場し、オンラインでは112名が視聴、第二部は約120名が参加しました。

プログラム:

1.基調講演 「水産業のスマート化 現場と今後の方向性~JAFICの取り組みを事例として~」
      黒萩 真悟 /一般社団法人漁業情報サービスセンター 専務理事
2.ご挨拶
勝俣 孝明 / 農林水産副大臣
3.パネルディスカッション 「
ウミも漁師も豊かに〜ITと漁業・流通現場〜」
パネリスト
漁業者
    ◦小笠原宏一 /北海道苫前町(北海道漁青連副会長)
    ◦川畑友和 /鹿児島県指宿市山川(JF全国漁青連 会長理事)
    ◦宮本洋平 /山口県下関市 (山口県以東機船底曳網漁業協同組合代表理事組合長)
水産関連IT企業
    ◦水上陽介 /オーシャンソリューションテクノロジー株式会社 代表取締役
    ◦新藤克貴 / 株式会社ライトハウス 代表取締役CEO
消費者市場
    ◦大隈祐哉 /グリーンコープ生活協同組合連合会 商品本部本部長
4.質疑応答

【第二部】18:10~19:30
1.主催者挨拶(株式会社水産経済新聞社 安成就三・株式会社UMITO Partners 村上春二 )
2.全国の若手漁業者からのメッセージ(動画)
3.来賓ご挨拶(衆議院議員 石破茂様、防衛大臣 浜田靖一様 全国漁業協同組合連合会 代表理事会長 坂本雅信様)
4.乾杯(大日本水産会会長 白須敏朗様)
5.懇親
6.ご来場の国会議員の皆様より一言ずつご挨拶

■第一部:

基調講演
一般社団法人漁業情報サービスセンター黒萩真悟専務理事 「水産業スマート化の現状と今後の方向 JAFICの取り組みを事例として」

水産業における様々な漁業の情報発信を行う一般社団法人漁業情報サービスセンター(JAFIC)黒萩専務理事が登壇。ITを活用したスマート水産業は、水産資源の適切な管理と漁業者の所得向上を目指す水産改革を支えるものと説明。変わりゆく海況・水産業を取り巻く環境の変化の中で、AIや衛星システムを活用して、操業の効率化や安全確保のためにJAFICが漁業者向けに提供するサービスの紹介、デモンストレーションが行われました。

ご挨拶 勝俣孝明農林水産副大臣

昨今の水産業が抱える課題を踏まえ、高まるスマート水産業への期待に触れ、「最先端のIT活用で日本の水産の未来へ向けてともに歩んでいきたい」とご挨拶いただきました。

パネルディスカッション 「ウミも漁師も豊かに〜ITと漁業・流通現場〜」

 パネリストとして、北海道苫前町でミズダコ漁を営む小笠原宏一氏、鹿児島県指宿市山川町で定置網漁を営む川畑友和氏、「下関おきそこ」船団のデジタル化により漁業効率化に取り組む宮本洋平氏、漁業者支援AIサービス「トリトンの矛」を開発・運用するオーシャンソリューションテクノロジー株式会社 代表取締役水上陽介氏、漁船向け操業効率化IoTサービス「ISANA」を開発・運用する株式会社ライトハウス代表取締役CEO新藤克貴氏、西日本を中心に約43万人の利用者をもつグリーンコープ商品本部本部長 大隈祐哉氏が登壇し、UMITO Partners代表取締役 村上春ニがモデレーターを務めました。

 まず初めに、水産におけるIT活用の事例紹介として宮本氏(山口以東底曳組合)から、下関沖合底曳網漁業が水産大学校と協力して開発した「漁業支援アプリケーション」についてお話いただきました。パソコンやタブレットの利用経験が全くなかった漁労長や、操業で多忙を極める現場のニーズに対応し、一から作り上げた同アプリの導入により、一航海あたりの水揚げ金額が増加傾向に転じるなど、今ではなくてはならないアイテムとして使用されている事例を紹介しました。

 沖合漁業における先進的なIT導入の事例紹介を受け、パネルディスカッションが行われました。UMITO Partners代表の村上がモデレーターを務め、次のような水産業のIT活用、DX化を起点とした幅広い議論が行われました。

  • 漁業現場での業務効率化や消費者への情報発信手法などのIT技術への期待
  • 漁業現場でのIT活用の費用面の課題
  • 漁業現場の導入に対する難易度への懸念といった心理的な課題
  • 課題解決に対する漁業者の努力を消費者に伝える必要性と手法、そのメリットについて
  • 実現に対して現在の流通経路が持つ課題

 沿岸漁業を行う川畑氏(JF全国漁青連)、小笠原氏(北海道漁青連)からは、IT技術活用に対する期待とIT技術導入に対する難易度への懸念といった心理的課題が共有されました。そうした課題に対して、新藤氏(ライトハウス)からは、実際の導入事例を交え、漁業者にIT技術導入のメリットを示すことの重要性が語られました。また、事例紹介を行った宮本氏(山口以東底曳組合)はITサービス利用のコスト負担が課題であることについて共有し、水上氏(オーシャンソリューションテクノロジー)からは、そうしたコスト面の課題に対する解決策として、消費者を巻き込む形で、漁業者の努力に対して付加価値をつけるアイデアが述べられました。消費者を巻き込む課題解決と関連して、川畑氏、小笠原氏からは漁業者は消費者が求める情報を知らないことや情報発信手法が限られているという課題も挙がりました。それに対し、大隈氏(グリーンコープ生活協同組合)は消費者が求める情報について共有した上で、小売業者から漁業者に対して情報を取りに行くなど、相互に情報を取りに行く働きかけの必要性を述べました。

 他にも漁業者、消費者それぞれの意識変革の必要性や、IT技術導入について漁業者間での合意に対する課題が示され、議論が行われました。来場者・オンライン視聴者からは、「各分野からスマート水産業についての意見が伺えて勉強になった」、「漁業者が持つIT技術導入までの課題に対する理解が深まった」などの感想が寄せられました。このパネルディスカッションの詳細はYouTubeからぜひ、ご覧ください。

■第二部:

懇親会

シンポジウム後の懇親会では、漁業者を中心に水産関連企業や国会議員などが参加しました。水産経済新聞社社長 安成就三氏からは3年ぶりの開催となった会への出席とシンポジウム開催への謝意を示し、株式会社UMITO Partners代表取締役 村上春ニからは「業界を超えた対話によって、互いにとって非常に刺激となる議論ができた。今後も現場との対話を大切に、資源の持続性と漁業の持続性を実現するべく、水産業のより良い未来に向けて皆さんと協力していきたい」という挨拶で幕を開けました。会場に設置したスクリーンでは北海道、千葉県、宮崎県などの各地の若手漁業者から事前に募集した未来の漁業に関する想いを語ったビデオメッセージを上映しました。農林水産総括政務次官 石破茂氏、防衛大臣 浜田靖一氏、全国漁業協同組合連合会代表理事会長 坂本雅信氏からのご挨拶をいただき、石破氏からは水揚量の減少、漁業者の減少といった課題に触れながら、「水産業が伸びる余地は十分にある」と可能性を示唆されました。坂本雅信氏からはシンポジウムのテーマであるスマート水産業が「時流にあっている」とし、「漁業者のために様々な面で貢献するべく、努力したい」と語り、浜田氏は「若い人が知恵を出して、どのように生き抜いていくのかが大切」と述べました。大日本水産会会長 白須敏朗氏からは「人・船・資源が大切である」と指摘し、乾杯の音頭をとりました。会の最後には全国漁港漁場協会会長 橋本牧氏からは今後への期待が述べられ、中締めとしました。

■開催を受けて

 本シンポジウムを通して、幅広い分野から水産業のIT活用についてのご意見を伺うことができました。IT技術を導入することで得られるメリットへの期待が聞かれる一方で、各生産現場や流通段階によって、実態が異なり、必要となる課題策も異なることが明らかになりました。バリューチェーン全体が当事者として話し合い連携することの必要性と、それによって各関係者にどのようなメリットがあるのかを設計することの重要性を実感し、そしてどのように消費者を巻き込み、どのような情報発信を行うべきか議論する機会となりました。UMITO Partnersでは、今後もこのようなバリューチェーンを超えた対話の機会を通じて、水産資源と生業としての漁業の持続性に貢献したいと考えています。

<基調講演登壇者>
黒萩 真悟 氏 / 一般社団法人漁業情報サービスセンター 専務理事

鹿児島県・伊佐市出身。鹿児島大学で水産を専攻し水産庁に入庁。漁業制度に関する知識は庁内でも指折りの存在として一目置かれ、長年、漁業管理・調整・取締に関わりながら、沿岸から遠洋まで国内の漁業実態に精通。増殖推進部長を最後に水産庁退官までの5年間は日本水産業の成長産業化の柱と言える養殖業成長産業化総合戦略や、スマート水産業の展開に向けたロードマップの策定にも深く関わった。現在は、一般社団法人漁業情報サービスセンターの専務として、民間の立場から水産現場へのIT活用推進に尽力している。

<パネリスト>
■漁業者 
小笠原宏一 氏 / 北海道苫前町 (北海道漁青連副会長)

生まれ育った北海道北西部苫前町で漁業を始め、漁師として生活する中で地域漁村コミュニティの縮小を目の当たりにし地域づくりに奔走する。その後、サステナブルな漁業を推進する村上春二氏(現・株式会社UMITO Partners 代表取締役)に出会ったことがきっかけとなり2019年にミズダコ樽流し漁業改善プロジェクトを始める。100年後も豊かな海を、いなか町の漁村コミュニティを未来に繋ぐことを消費者と共に目指すinakaBLUE(イナカブルー)を立ち上げ、茹蛸ブランドReTAKO(リタコ)を販売し活動中。


川畑友和 氏 / 鹿児島県指宿市山川 (JF全国漁青連 会長理事)

鹿児島県の高校から茨城県の大学を卒業。青森県のウラン濃縮・再処理工場にて勤務後、地元鹿児島県に近い、九州電力管内の原子力発電所で働いたことをきっかけに、脱サラして家業の漁師を継ぐ。現在は、鹿児島県指宿市山川町にて2か所の定置網漁業を営みながら、プロのダイバーとして船舶ドッグや、海洋環境を改善すべく鹿児島県内の各所と協力しながら藻場造成活動を行う。現職であるJF全国漁青連会長理事に就任後は、稼業を営みながら、全国各地にて藻場造成等の海洋環境改善活動や講演を行うなど精力的に活動中。


宮本洋平 氏/ 山口県下関市  (山口県以東機船底曳網漁業協同組合代表理事組合長)

大学卒業後、商社勤務を経て祖父の時代から続く漁業会社、有限会社昭和水産に入社。愛媛県と山口県の2拠点体制にて沖合底曳網漁船3ヶ統6隻を運行・経営する傍ら、産直事業や飲食事業にも着手し自社独自の流通システムを確立。2020年からは山口県以東機船底曳網漁業協同組合 代表理事組合長として「下関おきそこ」船団のデジタル化と業界の発展に取り組んでいる。

■水産関連IT企業
水上陽介 氏 / オーシャンソリューションテクノロジー株式会社(長崎) 代表取締役 

会社設立以来「トリトンの矛」の開発に携わっており、2020年に前代表取締役の後を継ぎ代表に就任。漁業者との対話が最も重要との考えのもと、企業理念に基づき、現場だけに注力するのでなく業界関係者全てに対し中立のスタンスを取っている。「地域コミュニティ」の堅持と発展を大切にし、破壊的イノベーションというアプローチではなく、包摂的なイノベーションを未来の水産業のあるべき姿と捉え、実現すべく邁進している。


新藤克貴 氏 / 株式会社ライトハウス(福岡) 代表取締役CEO

1987年生まれ。東京大学経済学部/経済学研究科にて製造業の事業転換に関する研究に従事。経営コンサルティング会社戦略部門にて主に新規事業開発やマーケティング等のプロジェクトを担当。ヘルスケアスタートアップを共同創業し、取締役CFOとして事業戦略策定と資金調達をリードした後、2017年に株式会社ライトハウスを設立し、現職。メインサービスである、漁船向け操業効率化IoTサービス「ISANA」は全国1,000隻以上の漁船に搭載され、日々漁業者の操業をデジタル面からサポートしている。

■消費者市場
大隈祐哉 氏 / グリーンコープ生活協同組合連合会(福岡) 商品本部本部長

2010年グリーンコープ生活協同組合連合会に入協。商品開発部署のお魚担当を務める。その後、グリーンコープ生協ふくおかへ出向し現場で実際に組合員配達を行う。2015年グリーンコープ生活協同組合連合会へ帰任後、カタログ製作部署の企画部 利用推進課の課長として着任し、企画部長、企画本部長を経て、2020年~商品本部本部長。

<モデレーター>
村上春ニ 氏 / 株式会社UMITO Partners 代表取締役

サンフランシスコ州立大学にて自然地理学とビジネスを専攻。パタゴニア日本支社で勤務及びフリーランスライターとして活動し、米国に所在する国際環境NGO Wild Salmon Centerの日本コーディネーターとして勤務。その後国際環境NGO オーシャン・アウトカムズ(O2)設立メンバーとして日本支部長に就任し、国内外の漁業現場のサステナビリティを支援。同組織は2018年にシーフードレガシーと合併し、取締役副社長/COOとして就任し漁業・科学部署と事業開発部署を統括。2021年株式会社UMITO Partnersを設立し漁業者・企業・料理人・自治体などと連携し、サステナブルな漁業や地域のために伴走する。

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