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2025/04/24

【レポート】シンポジウム「水産未来2025」開催 Vol.1 漁業現場 × 企業・金融・自治体の連携をテーマにディスカッション(第一部 前半)

水産経済新聞社提供

2025年3月3日(月)に株式会社UMITO Partners・株式会社水産経済新聞社共催シンポジウム「水産未来2025〜未来を創る連携とヒント〜」を海運クラブ(東京都千代田区平河町)で開催しました。

■過去最多の約330名が参加

3回目となる今回は、これまでから時間を拡大して開催。第一部に会場参加134名、オンラインのリアルタイム視聴約200名、合計約330名の方が、第二部では146名の方が参加し、活発な議論が繰り広げられました。
第一部では、漁業者9名と、漁業者と連携をして水産業・地域・環境などの課題解決に取り組む企業・金融・行政から計14名が登壇しました。

■石破茂首相からのメッセージ

水産経済新聞社提供

昨年、一昨年と会場に足を運んでくださっていた石破首相からは、「持続可能な漁業に向けた企業などとの連携、そういう本日のシンポジウムのテーマは、わが国漁業の将来を考えるうえで本当に意義深いものだと思っております。」と、ビデオメッセージにてコメントが寄せられました。

■ヒント1 「藻場」を「連携」で活かす

▫️鹿児島県で藻場保全に取り組む小型定置網漁業者・川畑さん

水産経済新聞社提供
  • 全国の漁業青年部を代表するJF全漁青連の顧問であると同時に自身も漁業者として鹿児島県指宿市山川で小型定置網漁を営みながら、その漁場管理の一環として藻場再生生態系保全に長年取り組む。
  • 磯焼け(海藻の減少や消失)に対処するため、海藻を食べるウニの密度管理、イスズミやアイゴなどの植食性魚類から海藻や海草を守る囲い網、加えて海藻や海草を新たに増やすための取り組みにより、健全な漁場生態系維持に努めている。こうした活動は元々は青年部活動としてスタートし、最近では企業からの協力を呼びかけ、多様な連携により活動の拡大をはかっている。
  • 川畑さんを中心とした山川漁協の取り組みは鹿児島で初めてのJブルークレジット®認定、2023年には漁協からの申請として初めて自然共生サイトにも認定され、2024年のG7におけるNbS(Nature-based Solutions)ワークショップで事例として紹介されるなど、外部からも高い評価を得ている。

▫️農林中央金庫・安藤さん

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  • 農林中央金庫は、全国のJA(農協)、JF(漁協)、JForest(森林組合)を会員とする系統金融機関の全国組織。
  • 藻場造成は漁業者だけではなく、多様なステークホルダーを巻き込んで取り組むべき課題と認識。近年では、TNFD30by30カーボンクレジットといった藻場とビジネスを繋げる結節点が注目を集めており、企業やアカデミアとの連携が重要となっている。

▫️佐賀県唐津市で藻場保全に取り組む海士漁業者・袈裟丸さん

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  • ウニを獲る海士(あま)漁師として、約25年かけてこれまでに11haの藻場を再生し、2022年にはJブルークレジット®認定を取得し、その後も継続して認定を受けている。
  • 地道な活動により、核藻場(核となる藻場)を育て、藻場を生育場所とする水産資源の増加にも貢献。
  • 近年は小学校への出前授業なども行っている。

▫️佐賀県唐津市役所環境課・楢崎さん

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  • 「環境」「社会」「経済」が循環し、持続可能な地域づくりを推進する取り組みとして、「唐津市版地域循環共生圏の実現」を目指している。
  • 唐津市役所は、一次産業を担っている地元の主体者と国や企業などの社会を繋ぐ役割を担い、ネイチャーポジティブの取組をボトムアップで推進し、投資を促している。
  • 唐津市役所では環境部局がハブになることで、環境問題に対して多方面からのアプローチを可能にしている。
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▫️漁業者x金融の連携について

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漁業者・川畑さん:
農林中央金庫の安藤さんの協力により、漁業者が知る機会のない社会のニーズを知り、そうしたニーズにどう漁業者が貢献できるのかを理解し、行動することにつながっている。

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農林中央金庫・安藤さん:
藻場・漁業・水産業の課題は、多様化しており、必要なソリューションも多様化している。川畑さんは新しいソリューションに対してもオープンな姿勢を持たれていることが、連携を進める上で鍵となった。

▫️漁業者x自治体の連携について

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漁業者・袈裟丸さん:
海洋環境の変化が加速する中でも、活動を続けることで少しでもその変化を遅くし、漁業を持続できるようにしていきたい。

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佐賀県唐津市役所環境課・楢崎さん:
袈裟丸さんの取り組みは、地域の資源を守る重要な取り組みである。こうした取り組みを発信し、また応援してくれる企業などと繋ぎ、こうした素晴らしい取り組みが経済的に評価される仕組みを築くハブ的役割をになっていきたい。

■ヒント2 「連携」が生む「流通」の成長

▫️沖縄県恩納村の漁業者・金城さん

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  • 沖縄県恩納村でモズクなどの養殖を行っている。1998年のサンゴ大規模的な白化を受け、モズクとサンゴが相互に生育に影響を及ぼしあうとされていることから、モズクの加工会社である株式会社井ゲタ竹内と漁協が協力して、サンゴの増養殖・保全にも取り組んでいる。ここ数年の海水温の影響でサンゴの白化が起こる中、モズクの生育にどのような影響があるかなど、漁協で研究を重ねている。
  • また、生産だけにとどまらず、恩納村漁協と提携するモズク加工場との連携、モズク加工品の流通先であるパルシシテムのイベントに参加するなど、サプライチェーン全体と関わりを持っている。

▫️北海道広尾町で昆布を軸に地域・漁業などの活性化に取り組む漁業者・保志さん

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  • ツブ貝と昆布の漁業に取り組んでいる。昆布漁業は広尾町で250年前から行われている地域の重要な伝統文化でもある。
  • 一方で、漁業者の高齢化や新規参入者の減少や、伝統的な漁法を継承するからこその非効率性による経済的な持続可能性の欠如といった課題がある。これに対して、テクノロジーを活用し次世代に求められる付加価値の高い漁業を目指して活動している。
  • 具体的には、これまで天日干しに頼っていた昆布の乾燥の機械化による生産性の大幅な向上や、これまで価値がつかなかった昆布の端材を活用した天然のうま味調味料「星屑昆布」の製造・販売などを行っている。この「星屑昆布」が、三菱食品さんの目に止まり、「星屑昆布」を使ったポテトチップスが北海道内のローソンに販売されることとなった。
  • 食品産業だけでなく幅広い産業と関わることで、産業間の関係人口の創出に寄与し、広尾町の昆布漁・そして地域の持続可能性を高めていくと考える。

▫️「星屑昆布」のポテトチップスの商品開発に携わった三菱食品・薮内さん

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  • 三菱食品株式会社は地域創生に力を入れており、地域の食資源を有効活用・付加価値化する取組みの一事例として、保志さんの「星屑昆布」を利用したポテトチップスの商品開発を行った。
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▫️漁業者(沖縄)x企業の連携について

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漁業者:金城さん:

  • 首都圏のパルシステムの組合員にも自ら出向いて説明に行き、遠い沖縄の話を身近に感じてもらえるよう努力した。生産者、流通、消費者が一緒に課題に取り組むことが重要だと思う。
  • 漁業者内の連携も大切にしており、地域の祭りを通じて結束を深めてきた。
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パルスシステム・吉江さん:

  • 恩納村漁協と井ゲタ竹内のサンゴの保全活動を応援するため、2008年にモズク購入代金の一部をサンゴ保全活動に寄付する仕組みを構築した。金城さんをはじめ、生産者は共に取り組む仲間として同じ目線で様々な活動をしている。
  • それぞれの地域の漁業にそれぞれの課題がある。そうした課題に対して商品を通じて「家庭にいながら産地の課題解決を応援する」ことを目指している。
  • 「組合員と産地との交流」を通じて、組合員の積極的な参加が進むよう取り組んでおり、交流イベントは毎回抽選になるほど人気が高い。2024年からは水産の課題を知り消費を通じて応援する「お魚食べよう」というキャンペーンを開始。全国約70箇所で組合員が自主的に勉強会を開催、約1000人が参加している。

▫️漁業者(北海道)x企業の連携について

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漁業者・保志さん:

  • 地元の広尾町で人口が7000人から5000人代に減少する中、「漁業者も魚をとっているだけではなく地域の存続に対しても働きかけをしなければ漁業を続けられない時がくるのでは」と危機感を覚えたことがきっかけで、地域づくり活動に参加。その活動を通じて薮内さんと出会った。
  • 「自分が昆布をとることで、三菱食品さんや社会がよくなることは何か」を一緒に考えて、星屑昆布を利用したポテトチップスの商品開発にいたった。
  • 最近注目される「海業」は、漁業者以外も水産業に関わりしろが生まれる取り組みだと思う。多様なステークホルダーと一緒に新しい水産の未来を築いていきたい。
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三菱食品・薮内さん:

  • 産地との取り組みは一過性ではなく継続が重要。保志さんとの連携の第二弾として、生活協同組合コープさっぽろ、株式会社にんべんと共に星屑昆布を利用した「濃厚つゆ」が最近発売となった。
  • 食品加工会社として、生産者と共に今後も地域の産品を世に広める活動をしていきたい。

(【レポート】Vol.2に続く)

関連記事はこちら:
【レポート】シンポジウム「水産未来2025」開催 Vol.2(第一部 後半)
【レポート】シンポジウム「水産未来2025」開催 Vol.3(第二部)

イベント概要・登壇者情報はこちら:
【リリース】<水産未来2025〜未来を創る連携とヒント〜>受付開始!3月3日(月)開催

メディア掲載情報はこちら:
【メディア掲載】シンポジウム「水産未来2025 ~未来を創る連携とヒント~」開催

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