【レポート】シンポジウム「水産未来2025」開催 Vol.2 漁業現場 × 企業・金融・自治体の連携をテーマにディスカッション(第一部 後半)
2025年3月3日(月)に株式会社UMITO Partners・株式会社水産経済新聞社共催シンポジウム「水産未来2025〜未来を創る連携とヒント〜」を海運クラブ(東京都千代田区平河町)で開催しました。
第一部 前半では、藻場再生や地域資源を軸にした連携事例を通じて、水産現場と企業・行政がどのように連携し、課題解決を進めているかを紹介しました。
後半では、さらに踏み込んで、国産水産物の価値をどう高めていくか、そして次世代を担う若手漁業者たちが現場で何を感じ、動いているのかに焦点をあててお届けします。
■ヒント3 「国産」価値の再構築

▫️青森県でマグロ漁業・水産加工販売を行う野呂さん
海洋大学を卒業後、青森県庁で水産技師として勤務後、民間に転職。青森県深浦町でマグロ漁業を行う株式会社ホリエイが、マグロ加工のために新規に立ち上げた株式会社あおもり海山の責任者に就任した。
- マグロの資源管理が重視されるようになる中、マグロの処理や加工による付加価値向上、天然資源に依存しないようサーモン養殖を開始し、自社の水産物の付加価値向上に努めてきた。
- 海外に販路を拡大するためには、国際的なエコラベル認証であるMSC・ASCの取得が求められる。アメリカの大手販売店では、MSC・ASCを目指す漁業の規格であるFIP・AIPの水産物も取り扱いをするため、水産庁補助を活用しFIPとして定置網のブリ・近海のベニズワイ、AIPとしてホタテとサーモンの漁業の持続可能性確保に向け取り組んでいる。

▫️石川県で定置漁業を行う漁業者・窪川さん
東京海洋大学で資源管理を学び、塾講師を経て2011年に漁業者に転向。
- 漁業者と魚の「価値」との関わりには2種類ある。一つ目は、漁業者のアクションにより魚そのものの価値を上げる取り組み(品質・鮮度など)、二つ目は需要と供給の変動など外部要因によって決定される魚の相対的な価値である。魚価への影響が高いのは、二つ目の相対的な価値であり、漁業者は流通の主導権を握り相対的価値をマネジメントすることが重要である。
- 漁業者が直接コミュニケーションをとれるのは仲買人。仲買人がサプライチェーン上の情報を集約してくれているので、仲買人とのコミュニケーションを重視している。セリにも参加し、密に連携をとっている。
- 漁業者は、生産者でもあり経営者でもある。経営の目線ももつことが重要。漁業者の経営改善を手助けする立場にあるのが漁協や、都道府県の水産行政である。理想は「がんばらなくても儲かる仕組み」があること。漁業者は魚をとるだけでしっかり儲かる仕組みを漁協や行政が作り上げられたらベスト。
- 漁業者はもっと経営についてもっと勉強する必要があると思うし、漁協や行政は、漁業者と同じ意識で漁業に関わってほしい。
- 気候変動、人口減少は避けられない。そうした状況を踏まえて経営者目線で対策を考えることが必要。

▫️北海道でマイワシを原料とした養殖業のエサを製造販売する池下産業・池下さん
池下産業は、北海道広尾町でマイワシを原料としたフィッシュミールとマリンオイル(養殖漁のエサの原材料)の製造販売を行う。
- マイワシは昔は大量に水揚げされていたが、平成に入り北海道では一時期急にマイワシが全く獲れなくなり、その原因もまだわかっていない。この影響で、北海道道東エリアに40社あった同業者が、現在は4社となった。
- 20年ほど前から再度獲れるようになり、池下産業も製造を再開したが、マイワシの資源状態に経営が影響を受ける可能性を見越して、食品としてのマイワシ加工販売にも取り組みを始めた。
- また、マイワシを買い付ける仲買業者として、漁業者とともにマイワシの持続可能性や付加価値を高めるためにMSC認証の取得に向け、FIPに取り組んでいる。
- 需要と供給の均衡を取ることが大事で、漁業者、仲買人、消費者全てにおいて満足のいくようなバランスを取っていくのが大事だと思う。
- 日本全国、魚の生息域が変わってきている。漁期なども見直して行く必要があると思う。

■ヒント4 「担い手たち(若者)」の力

▫️漁業者x漁業者の連携について

尾崎さん(全国漁青連副会長/北海道・紋別漁協):
青年部として北海道全体で2000人以上いる。紋別では30人所属しているが、実際に活動しているのは15人程度。先輩たちがこれまでしてきた、青年部としての活動を後輩にどう伝えて行くのかが課題と感じている。

竹内さん(全国漁青連副会長/石川県漁協七尾支所):
支所の運営委員長は、漁協の組合長的なポジション。上は80代まで先輩がいる中、39歳の自分はしたから二番目の若手。自分がトップになることに対して、周囲からの反発もあった。
2024年1月の能登半島地震の3週間後に、全漁青連の活動を通じて水産庁長官や全漁連会長と東京で直接対話する機会を持つことができた。これにより、現地の漁業がどのような状況にあるのかを直接伝え、漁業が再開できるようになるまで漁業者に海の瓦礫撤去などを担わせることで漁業者の離職を防ぐことなどを提案した。こうした対応が評価され、先輩の漁業者からも認めてもらえるようになり、組織としてまとまってきたと感じている。

阿部さん(全国漁青連会長/宮城県漁協谷川支所):
親世代の漁業者は違う浜の漁業者との交流が少なかったが、2011年の東日本大震災で一緒に復興を目指していく中で、自分たちの世代では浜を超えた漁業者同士のコミュニケーションが増えた。それ以来、様々な漁業者と漁の現状などについて密に連携して話すようになってきている。

金城さん(全国漁青連副会長/沖縄県・恩納村漁協):
モズク養殖を始めた自分の親世代から海神祭(ハーリー)(沖縄の伝統的なサバニ舟での船漕ぎ競争を行う祭り)に、青年部として優勝を目指し参加する姿を見て育った。一時期このハーリーへの参加がそこまで重視されないようになっていたが、自分が青年部長になった時に呼びかけ、再度ハーリーに力を入れ始めた。ハーリーへの参加は漁業者同士で連携を取るきっかけになっている。

袈裟丸さん(全国漁青連理事/佐賀玄海漁協):
佐賀県には有明海と日本海(玄界灘)の二つの海がある。今まではあまり交流がなかったが、近年の海洋環境の変化を受けて、佐賀県全体として交流し情報交換していこうという機運が高まっている。漁業者は成功事例を真似する特徴があるので、自分が取り組む藻場造成についても、「環境に良いことが経済的にも評価される」という仕組みをつくることができれば、他の漁業者にも広がっていくと思う。

川畑さん(全国漁青連顧問/鹿児島県・山川町漁協):
自分は46歳。先輩漁業者は60代以上が多くて歳の近い先輩漁業者が少なく、青年部を立ち上げた27歳の当時、なかなかうまくコミュニケーションがとれていなかった。藻場造成の話を提案しても賛成が得られず、青年部だけで活動を開始した後、情報共有ができていなかったことで、溝が深まってしまった。
YouTubeで藻場保全の取組みを配信したことをきっかけに、活動の目的や内容が先輩漁業者たちにも理解され、取組みが認められるようになってきた。今では、先輩漁業者たちとも丁寧にコミュニケーションをとることで、うまく連携できるようになり、今ではとても応援してくれている。

袈裟丸さん(全国漁青連理事/佐賀玄海漁協):
唐津でも、最近まで藻場造成に対して先輩漁業者からあまり理解を得られていなかったが、水温上昇が進み、周囲で磯焼けが進む中で海藻が範茂する状況を動画で共有することで、理解を得られるようになってきた。
▫️漁業者x仲買人の連携について

川畑さん(全国漁青連顧問/鹿児島県・山川町漁協):
仲買人と漁業者は、一般的に仲が悪いと思われているし、自分もそうだった。でも仲買人さんのおかげで自分の魚が全国に流通するという流通の仕組みを理解してからは、ありがたい存在と思えるようになった。

袈裟丸さん(全国漁青連理事/佐賀玄海漁協):
自分が獲っている魚種がどんどん獲れなくなってきているため、価値が自然と上がっている。それに加えて藻場保全の取組みが評価され、仲買人さんに高く買ってもらえるようになっている。自分がどういう思いや方法で生産・出荷しているのかを伝える努力をすれば、評価してくれる存在だと思っている。

金城さん(全国漁青連副会長/沖縄県・恩納村漁協):
恩納村では競りの時間が午前11時と県内で一番遅いため、金額が上がりづらい。
仲買人とは仲がいい方だと思う。恩納村ではタコがよくとれ、タコだけは安定して高い価格がつくが、魚類の価格はどうしても仲買人次第になる。加工メーカーに全量出荷しているモズクは、その都度、組合長と加工メーカーでその時の質や量を加味して相談して価格を決めている。

竹内さん(全国漁青連副会長/石川県漁協七尾支所):
自分も以前は仲買人は詐欺師だと思っていた。自分が漁場にしている七尾湾内の魚が減少の一途で、収入を増やすために自分でも加工会社を始めた。自分が買う側になって初めて、流通には色々な経費がかかることを知った。今では、それを理解した上で仲買人さんと協力しあう関係ができたし、他の漁業者にも説明をできるようになった。流通の仕組みを漁業者がもっと知る機会があると連携が進むのでは。

尾崎さん(全国漁青連副会長/北海道・紋別漁協):
紋別では仲買人と漁業者は良い関係。自分は、競りに必ず行って仲買人の評価を聞くようにしている。仲買人とゴルフに一緒にいくなど、プライベートでも信頼関係を築くことで、魚の扱い方など率直なアドバイスをもらえる関係性をがつくれている。

阿部さん(全国漁青連会長/宮城県漁協谷川支所):
震災以来、仲買人さんとは「共に石巻の魚をよくしよう」という共通の目標を持って取り組んでいる。一緒に船に乗ってもらい、魚のしめ方を教えてもらったりしながら、石巻の魚の底値を上げる努力をしてきた。だからこそ市場を通じて出荷しようという気持ちもある。それを見た他の生産者の処理のスキルもあがり、全体としての価格も上がってきたので、自分もさらに努力しようと思っている。
自分は生産、流通、消費の全ての場面にたち会える機会もあり、「生産からごちそうさままで」をモットーにしている。
▫️今後の全漁青連の活動について

阿部さん(全国漁青連会長/宮城県漁協谷川支所):
全漁青連の理事は、全漁青連の活動を通じて得られた知識や経験を、全国各地の青年部員の代表として部員に伝え、広めていきたい。
■参加者アンケートの結果
78%の方が、今後の自身の活動に活用すると回答
参加した方を対象にしたアンケート結果(回答者数65)では、得られた情報や気づきの活用方法について、78.5%の方が「自身や所属組織の活動につなげる」、また49.2%の方が「周囲に共有する」と回答。多くの方にとって実践につながる情報や気づきが得られた場となったことが伺えました。皆さまの現場での取り組みが水産業のよりよい未来につながっていくよう、今後も、皆さまの活動に役立つ情報やつながりをお届けできるよう取り組んでまいります。

(【レポート】Vol.3に続く)
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【リリース】<水産未来2025〜未来を創る連携とヒント〜>受付開始!3月3日(月)開催
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【メディア掲載】シンポジウム「水産未来2025 ~未来を創る連携とヒント~」開催
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