レポート
「海と漁師を語らう場”UMITOBA”〜生き物の繋がりと私たちにできること〜」を開催

2025年9月11日、全国の漁業者がそれぞれの目の前の海の課題と向き合い、主体的にアクションを起こすためのコミュニティ「UMITOBA(ウミトバ)」の初の対面イベントを都内で開催しました。12名の漁業者を含む49名が一同に会し、オンラインでも多くの方が視聴しました。
プログラム
日時:2025年9月11日(木)14:30〜18:00
会場:Parklet Meiji Park Market(東京都新宿区 都立明治公園内)
14:30〜 ごあいさつ
14:40〜16:20 3つの海の現場から「漁師が守る豊かな海」
・小濱一也 & 上田健悟(山口県漁協 室津支店 定置網部会)
・吉川岳(島根県隠岐郡海士町 魚突き漁師)
・戎本裕明(広島県 明石浦漁協 代表理事組合長)
16:20〜16:50 アカデミア×料理人 「守られることで得られる海の恵み」
・野村友里(料理人/eatrip主宰)
・清野聡子(九州大学 准教授)
17:00〜18:00 食事・交流会 「食べて感じる豊かな海」
ごあいさつ
冒頭、司会のUMITO Partners 岩本より「豊かな海を守るために海に行かない私たちは何ができるのか考える場に」と、イベントの趣旨を説明。

続いて、衆議院議員 鈴木貴子さん(自由民主党水産部会長)より、日本近海では世界の中でも特に高水温化が進んでいることへの懸念やに触れ、海洋環境の調査と・評価制度の整備による「豊かな海の見える化」について、党内で議論をしていることが共有されました。

また、藤田仁司水産庁長官からは、海洋環境の変化が目まぐるしい中、行政だけでは対応できないことが増えており、UMITO Partners のような民間の取り組みが重要性を増しているとお話しいただきました。
山口・室津の海の現場から
漁業者から直接聞く、「海の今」。トップバッターは、山口県漁業協同組合 室津支店 定置網部会より、子供の頃から海が大好きで漁師になることを決めていたという小濱 一也さんと、研究活動でふれた室津の漁師の生き方に惚れ込み、漁師になった上田健悟さん。「豊かな海とは、人が集まる海」と語るお二人が、地域の漁業者が減少する中での、水産資源の持続可能性と浜の活気を取り戻すための取り組みを紹介くださいました。


室津の海の今
- 組合員数が10年間で48人から25人に減少。
- 環境変動、資源減少、高齢化、後継者不足などが原因で、昔と比べて浜の活気に衰えがある。新型コロナウィルスによる影響も。
- 海の環境が変わり、海にいる魚の種類が変わってきている。年配の漁業者も、最近は毎年「こんな海は初めてだ」と漏らしている。
- 室津はまだ海藻・海草が残っているが、他地域の磯焼けの様子を見ると、いかに室津の環境が貴重で重要かを感じる。
取り組んでいること
- 定置網部会6人で、自主的な資源管理や磯焼け対策を行う、「山口県室津定置サステナブル漁業プロジェクト〜漁師の魂プロジェクト」を開始。道の駅と連携してのイベント開催などにも取り組んでいる(プロジェクトの詳細はこちら)
- 大学などの研究機関とスナメリや海鳥など希少な生き物を調査したり、図鑑の作成に協力。
みんなへのメッセージ
- 消費者が食べる魚には必ずその背景に漁師の思いや行動がある。その物語を感じながら食べてもらえると嬉しい。
- 漁業者の取り組みを声を出して応援してもらえると嬉しい。
島根・隠岐の海の現場から
次に登場したのは、社会人野球の選手を経て、島根県隠岐諸島の海士町に移住し、魚突き漁師となった吉川 岳さん。素潜りで漁業を行うからこそわかる海の変化や、美味しい魚を届ける取り組みについてお話しくださいました。

隠岐の海の今
- 隠岐の海は透明度が非常に高く40mを超えることもある。
- 近年はサーモクラインが深くなっており、より深いところまで高水温化し藻場が減少している。(補足:サーモクライン=水温躍層。太陽で温められた水と冷たい水が混じり合わず、水中で温度が急激に変化する層。気温がより高くなると、より海水が温められるためサーモクラインが下がる。)
- 森と海は繋がっており、松枯れ病による森林の変化が湧水の減少を招き、海に影響していると感じている。
取り組んでいること
- 最も鮮度が高い状態で水揚げ可能な素潜りによる魚突き漁へのこだわり。目で見て獲る魚を選べ、魚にストレスをかけずに最もおいしい状態で水揚げができる。一匹あたりの市場価値を最大限に高めることで、1日3-5匹のみの漁獲で生計をたてている。
- 目視で魚体サイズに制限(20cm以下のイシダイや5kg以下のクエは取らない)
- キルショットと呼ばれる、魚の脳を一発で仕留める方法で漁獲することで魚にストレスを与えず、そのまま水中で血抜きまで行った後に熟成させることで通常より長期間刺身で食べられる状態を維持することが可能で、水揚げから2週間刺身で食せる。離島なので、流通にかかる時間が課題になるが、鮮度を長期間保つ方法により克服した。
- 自分は、魚の命を料理人へバトンタッチしていると思っている。漁師と料理人が協力することで、命の価値を消費者にしっかり届けたい。
みんなへのメッセージ
- 海の豊かさを守るには、命を尊むこと、森林の回復、漁業関係者の意識変化、法改正、フェアトレードの実現が必要と考えている。「海の回復」はもう難しい段階にきており、「進行をいかに遅らせるか」に目を向けるタイミングがきている。
- 漁業法や、各都道府県の行使規則が、資源管理のためではなく特定漁法を優遇する形になっているように感じる。本来であれば、漁獲量を全体で取り決めて公平に割り振るべきである。
- 「フェアトレード」という言葉は主に貿易で用いられるが、国内の一次生産者にとってもフェアトレードが必要。水産業は、漁業者が値段を決められない仕組みなので、仲買人の中間マージンに上限を決めるなどして、高値がつけば漁業者にも還元されるような仕組みがあると嬉しい。
瀬戸内海・明石の海の現場から
3番目は兵庫県・明石浦漁協で、46歳の若さで組合長に就任し、以来16年間「本当の海の豊かさとは何か」を考え行動し、法律の改正の実現にも貢献した戎本 裕明さんからお話しいただきました。

明石の海で起きたこと
- 狭い海域に周囲の陸から大量の排水が流れ込む瀬戸内海では、水質の悪化が深刻になり赤潮などが多発し、1970年代には瀬戸内海は「瀕死の海」と呼ばれるように。
- 1978年には水質浄化のための瀬戸内海環境保全特別措置法(瀬戸法)が制定され、赤潮などの発生が減少。
- しかし2001年に新たに窒素やリンといった、海の食物連鎖の土台となる植物プランクトンが栄養とするもの(栄養塩)が排水規制の対象となると、漁獲量が減少。同じく窒素やリンを吸収して育つノリの色落ちや、魚の小型化もみられるようになる。「綺麗になりすぎて魚がいない」状態となってしまう。
瀬戸内海の取り組み
- こうした状態に危機感を感じた漁業者が、栄養塩を適度に排水することの必要性を行政に対して働きかけてきた。県の協力や、県魚連のリーダーシップもあり、2015年から栄養塩と水産資源の関係の調査が開始され、漁業者の主張が正しいことが理解され、2021年に法改正が実現し、排水をただただ規制するではなく、適切に管理する(適度に栄養塩を海に排水する)制度が創設された。現在は、「きれいな海から豊かな海へ」が地域のスローガンとなっている。
- 漁協としても、海底耕耘、ため池の水の活用、漁業者の森づくり、有機肥料の投入など、豊かな海づくりのために活発に活動をしている。
アカデミア×料理人 「守られることで得られる海の恵み」
長年、漁業者と連携して各地で色々な角度から「豊かな海」の実現に取り組み、研究を行う九州大学の清野 聡子さんと、生産者のストーリーを大切にする料理人として、レストラン経営や、メディアなどで積極的に発信を行う野村 友里さんが、アカデミアx料理人x漁業者の連携により、海の豊かさが魚に与える影響や、やそれを守る取り組みについてどう消費者に届けることができるのか、UMITO Partners村上のファシリテーションにより議論しました。



料理人にできること
- 野村さん:このイベントのために調理をした吉川さんが突いた魚は、質も見た目も他の魚と全く違った。魚に漁師が突いた後がはっきり残り、ストーリーが伝わった。品質も高く料理人はその美味しさをそのまま伝えることが役割と感じた。
- 野村さん:漁業は農業と違い、生産量や質のコントロールが難しい。だからこそ、魚そのものがもつ品質、そこに手間を加えてたし引きすることの役割がより重要になる。また多くの消費者は通常の生活で接点がないため、どのように消費者に海の生態系と魚の品質との県形成や漁師の物語を伝えるか、工夫が必要。
みんなで力を合わせてこんなことができるのでは
- 清野さん:料理人の味覚を言語化し、科学的知見を組み合わせて消費者に届けることで、海の豊かさをより立体的に伝えられるのでは。
- 清野さん:ワインのように、料理人の味覚がよしとするものを明確にしてゴールを示すことができると、それを実現するためにはどんな海の環境が必要か、漁師はどういう風に漁をする必要があるのか、共通のゴールができるのでは。
- 日本の多様な海の環境と食文化の価値を再認識し、それを守る取り組みはとても大切。
食事・交流会「食べて感じる豊かな海」
交流会では、海の生態系を表現する生き物や、そこにそれぞれの想いをもったヒトが関わる水産物を食材に、料理人・野村友里さん(eatrip)と向井知さん(CIMI)のコラボレーションによりこの日のために考案された、スペシャルメニューをいただきながら、参加者同士の交流が行われました。



