海の回復と産業の成長を、同時に実現する【前編】
―海洋インパクトファンド Blue Frontier Fund[BFF]が目指す
新たな経済モデル「ニュー・ブルー・エコノミー」とは
Beyond Impact サガール・タントン × UMITO Partners 村上春二
Beyond Impact サガール・タントン
×
UMITO Partners 村上春二
2026/05/28
Text : Eri Ishida
読了時間 : 約10分
まさに今、世界で加速している海洋投資。しかし、海洋インパクト投資の領域において、「漁業の現場を知っている」投資家も、「投資の世界を知っている」漁業コンサルタントも、ほとんどいないというのが実情です。そんな中、欧州を拠点にグローバルなインパクトVC投資を手がけてきたBeyond Impactと、持続可能な漁業コンサルティングから出発したUMITO Partnersは、海洋特化型インパクトファンド「Blue Frontier Fund[BFF]」の企画をスタートさせました。この2社が、互いの強みを活かし協働するに至ったプロセスとは。そして、BFFはインパクト投資によって、どのように海を回復へとつなげようとしているのか。そのビジョンについて、Beyond Impactのパートナー、サガール・タントンとUMITO Partnersの村上春二が、前後編にわたり語り合います。
自ら投資した資金は、どこへ流れていくのか
—Beyond Impactの原点
―「Blue Frontier Fund[BFF]」[1]を企画するに至った背景についてお話を伺う前に、まず、Beyond Impact[2]というベンチャーキャピタルがどのように生まれたのか、その背景と哲学についてお話しいただけますか。
サガール・タントン(以下、サガール):創業者のクレア・スミスがBeyond Impactを設立したのは、2017年のことです。しかし、その構想は2016年頃からありました。彼女の考えの根底にあったのは、「よりやさしく(kinder)、よりクリーンで(cleaner)、より健康的な(healthier)世界への移行を加速させる解決策に投資したい」という、個人的な強い思いでした。
クレアは、地球の健康、人間の健康、そして私たち以外のすべての生物の存在を、切り離さずに捉えていました。そして、私たちが自然や動物を過剰に利用・搾取する構造から、どうすれば脱却できるのかを考え始めました。その最初の問いは、シンプルでありながら根本的なものでした。「自分のお金は、どこに投資されているのだろう?」と。
S&P500や各国のインデックスファンドなど、一般的なパッシブ投資は複利で資産を増やす仕組みとしては合理的です。しかし、その中に含まれる企業の多くは、必ずしも社会や環境の転換を積極的に進めているわけではありませんでした。そこで彼女は自分の価値観に沿った投資先を選びたいと考え、〈Beyond Investing〉というETF[3]を立ち上げました。これが現在では、約1億3,300万ドル規模に。決して巨大な市場ではありませんが、着実に成長しています。
村上春二(以下、村上):一定の成果は出たのですね。
サガール:しかし、彼女はそのプロセスにおいて、「これだけでは、根本的な問題は解決しない」ということに気づいたのです。ETFによって投資の方向性を示すことはできても、企業や社会そのものを変革するほどの力はありません。そこで次に見据えたのが、イノベーター(社会課題を解決する革新的な技術を持つスタートアップ)への直接投資でした。
村上:社会構造自体を変革していくような企業やスタートアップを後押しする必要があると。
サガール:そうした考えを深めていく中で、彼女が特に重要だと感じたのが、SDGs[4]の12番目である「責任ある消費と生産」というテーマとの出合いでした。私たちが食べるもの、身につけるもの、服用する薬、使う素材——それらすべての「生産のあり方」を変えなければ、本質的な転換は起こらない。そう確信を持ち、Beyond Impactはインパクト投資のアセットマネージャーとして進化してきたのです。
村上:Beyond Impactは、「kinder・cleaner・healthier」という3つの言葉を、中心的な価値観とされていますよね。いわゆる”金融”のことを、こうした言葉で語ること自体、私は非常に本質的だと感じました。このフィロソフィーには、どのような意図が込められているのかお話しいただけますか?
サガール:まず「kinder」について。地球、人間、ほかの生物に対して、もっと違うかかわり方ができるはずだという考えが、私たちの企業理念の根本にあります。多くの革新的なソリューションを見ていると、この「やさしさ」の視点が欠けていることが少なくありません。次に、「healthier」は、単に環境負荷が低いだけでは不十分で、それが私たちの健康を損なうものであれば、持続可能とは言えないという考えです。動物性のものを使わず環境負荷も低かったとしても、それが健康を害する食品であれば、本当の解決策とは言えないでしょう。そして「cleaner」は、食品、素材、化粧品の分野において、製品の裏側に数え切れないほどの化学物質が使われている現実への問いかけです。すべてが悪いわけではありませんが、より少ない成分で、より生物由来の素材へと移行できる余地は大きいと考えています。重要なのは、この3つは独立しておらず、互いに深く結びついていることです。だからこそ、Beyond Impactの投資判断の中心に据えているのです。
渋沢栄一が見ていた未来
—インパクト投資の系譜と、現在の転換点
村上:インパクト投資自体も、ここ数年で大きく変化しているように感じます。サガールさんは、グローバルでインパクト投資がどのように進化してきたと見ていますか。
サガール:私自身の経験からお話しすると、私がこの分野に入ったのは2000年代初頭でした。最初はマイクロファイナンス(途上国の貧困層への小規模投資)から投資を始め、教育分野へと活動範囲を広げていきました。先進国から新興国へ慈善資金が流れた時代で、私もその一翼を担っていたのです。そうした中で、「市場原理を活用したほうが、より持続的に社会課題を解決できる」という考えが広まり、慈善活動家たちがインパクト投資家へと変わっていった。つまり、インパクト投資の黎明期は、慈善活動(フィランソロピー)からの進化でした。そして次第に、ジェンダーや気候変動の視点が加わり、現在では、洗練された金融投資家もインパクト投資を正当なアセットクラスとして捉え始めるようになりました。
村上:そうして進化を遂げてきた一方で、まだ課題も残っていますね。
サガール:その通りです。国連の「Financing for Sustainable Development Report」や、UNCTADの調査によると、SDGs達成のためには、途上国で年間約2.5兆〜4兆米ドル規模の資金が不足しているとされています[5]。一方で、Global Impact Investing Network[GIIN]によると、インパクト投資の市場規模は2023年時点で約1.6兆ドルに成長しました[6]。資金は動いてはいますが、まだ必要額の半分にも満たないのが現状です。
村上:それが、ここ1〜2年で、気候リスクや社会的リスクが、投資戦略を立てる上で避けては通れない喫緊のテーマであることが、グローバルの共通認識となってきました。投資判断とインパクトを同時に考えなくてはならないと。
サガール:十数年前に出会った、あるインパクト投資家の言葉が今でも強く心に残っています。「あらゆる金融判断、あらゆる投資、そしてあらゆる企業は、本来インパクト投資として捉えられるべきだ」と。私はこの言葉を、環境問題は単なる”地球の問題”ではなく、”人類そのものの問題”であると理解しました。現在、「インパクト投資家」とひと口に言っても、そのスタンスはさまざまです。インパクトを最優先する投資家、市場リターンを重視する投資家、そしてESGを中心としたパッシブな投資家もいます。グローバルではインパクト投資のエコシステムは確実に進化し洗練されつつありますが、この市場を本格的にスケールさせ、資金ギャップを埋めていくための挑戦は、まだ道半ばなのです。
村上:資金ギャップは課題ではありますが、逆に私は、そのギャップこそがインパクト投資家にとって本質的な変化(インパクト)を生みだせる、極めて大きなチャンスだとも思っています。
サガール:その話になると、以前村上さんにもお話ししたことのある渋沢栄一のことが思い浮かびます[7]。彼の思想を深く掘り下げていくと、インパクト投資が本来何を目指すべきなのかが、より鮮明に見えてきます。
――実業家は一市民を代表し、国家の利益のために行動する。国家の中心にあるのは国民であり、国民は自国だけに関心を寄せるという狭い視野にとどまるのではなく、全世界がひとつの共同体となる方法を考える必要がある――
『グローバル資本主義の中の渋沢栄一 ―合本キャピタリズムとモラル』東洋経済新報社
渋沢栄一の孫である渋沢健氏が、ある記事でこの思想について言及しており、この言葉に私は深く感銘を受けました。社会と自然の調和を生み出すような企業や投資を築いていかなければ、人類そのものの未来が危うくなる。「道徳と経済の合一」という彼の思想は、まさにインパクト投資の根幹に通じるものです。「気候変動は人類そのものの問題なのだ」という視点も、その延長線上にあり、だからこそインパクト投資は単なる金融戦略ではないのです。社会と自然がともに繁栄できる未来を次世代に手渡すための、責任ある行為なのだと思います。
「インパクトか、リターンか」—その問いを超えた投資哲学
村上:まさにその視点は欠かせないと思う一方で、投資である以上は、経済的リターンを生み出すことが不可欠ですよね。Beyond Impactでは、インパクトと経済リターン、2つの側面をどうバランスをとりながら意思決定を行っているのでしょうか。
サガール:哲学として語ることは比較的簡単ですが、実際に運用するのは決して簡単ではありません。私たちが最初に行うのは、投資対象となる企業・スタートアップの財務面・ビジネス面の評価です。これが大前提であり、その上で初めて「インパクトの視点」を加えます。意味のあるインパクトを生み出すためには、その解決策がビジネス的にも成立していなければならない。仮に社会・環境にポジティブな影響をもたらす可能性があっても、ビジネスとして成立しなければインパクト投資とは位置づけません。一方で、ビジネス的には成立していても、明確なセオリー・オブ・チェンジ[8]が示せない案件にも投資しません。気候関連スタートアップに対してはLCA[9]やその他の定量的指標を用いて期待されるインパクトを検証することも必須です。
さらに、インパクトを長期的に担保するために、投資契約の中に特定の条項を組み込むこともあります。スタート時にはポジティブなソリューションを提供していた企業が、将来的に気候・自然・動物に対して危害を加えるようになったと判断した場合、私たちには投資を撤回(ダイベスト)[10]する権利がある、という条件です。投資期間を通じてインパクトの健全性(インテグリティ)を維持することを、私たちは非常に重視しています。
村上:投資家とのコミュニケーションでは、何に重きをおき、どのように説明されているのでしょうか?
サガール:私たちはインパクト投資だからといって、財務リターンは低くて当然だとは考えていません。事業としての実現性が高く、現実社会での適用可能性が明確なソリューションほど、持続的にスケールしやすく、その結果としてインパクトも拡大していく。スケールするビジネスは、従来の投資と同等のリターンを生み出すはずです。だからこそ私たちは、投資家に対して、従来型のベンチャーキャピタルと同等の市場ベースのリターンを目標としていることを、明確に伝えているのです。
民間セクターから、海に本質的な
ポジティブ・インパクトをもたらすには
─ UMITO Partnersがブルーファイナンスに参入するに至った経緯について、教えていただけますか。
村上:UMITO Partnersは、漁業者こそが海洋課題解決のキーパーソンだという考えからスタートし、持続可能な漁業のコンサルティングを続けてきました。しかし、活動を続けるうちに、海が直面している課題は年々より複雑に、より加速度的に悪化していると実感するようになりました。漁業がサステナブルにシフトするスピードが、海が悪化するスピードに追いつけないのです。私たちは、コンサルティングの一環として、政策、流通、産業界、さまざまなステークホルダーと連携しながら、漁業現場の声が政策に反映されるよう公平な政策設計プロセスを支援してきました。その中で見えてきたのは、インパクトを生み出すレバレッジは政策にあるものの、実際の主体性は漁業者の側にあるのだ、という事実です。漁業者こそが、海の課題の最前線に立っており、彼らの参画なしに持続可能な漁業は実現できません。この考えは、今もUMITO Partnersの根幹であり続けています。ですが、政策の変革にもまた、多大な時間と労力がかかるのです。今の政治は不安定で変化のスピードもとても速い。民間セクターから政策意思決定に影響を与えようとしても、求められるスピードに追いつくのは容易ではありません。
そこで、考えました。民間セクターが直接アプローチして実質的なインパクトを出せる方法とは何か。私たちが最終的にたどり着いた答えが、「海洋環境を再生するイノベーションを生み出し育てること」でした。イノベーションを支援することで、海の悪化のスピードに見合ったスケール可能な解決策を生みだせるのではないかと。
サガール:そこからファイナンスへ繋がったのですね。
村上:財務基盤が安定していなければ、長期的にインパクトを出し続けることはできません。その点において、コンサルティングというビジネスモデルには、どうしても限界があります。より大きなインパクトを出そうとすればするほど、人的リソースも時間も必要になり、本質的にスケールしていかない。私たちはそこに課題意識を持っていました。さまざまなビジネスモデルのアイデアを検討しましたが、どれも海が直面している課題の一部しか解決できない。海の課題は複雑で、相互に結びついているので、本質的な変化を生み出すには、単一の解決策ではなく、複数の解決策を組み合わせた「ポートフォリオ」が必要だと気づいたのです。そして、このポートフォリオに適切な規模の資本を流入させることができれば、インパクトを飛躍的に拡大できるのではないか、という考えに至りました。
サガール:UMITO Partnersにとって重要な転換点だったのですね。
村上:社内のメンバーとこの判断に至ったとき、私たちは自然の中にいました。UMITO Partnersでは、年に一度、自然とのつながりが感じられる場所へ、全員でリトリートに行くんです。自然の中に身を置き、自然をどう回復させていくかを考える。このときも、山中の川でひとしきり遊んだあと、川縁でこれから私たちは何を目指すべきかを話し合いました。会議室ではなく、自然に囲まれながら議論を進めるうちに、ブルーファイナンスに参入しようという結論にたどり着いた。私たちらしい瞬間だったと思います。
サガール:UMITO Partnersの興味深い点は、自らを「ソリューションの提供者」ではなく、「エコシステムの担い手」であると捉えているところだと思います。だからこそ、ポートフォリオ・アプローチを採用すべきだという考えに至ることができた。
村上:私たちは、常にエコシステム・プレイヤーであるという自覚を持って行動しています。実際に、私たちが関わるのは、漁業者だけではなく、大学や研究機関の研究者、科学者、企業担当者、政策決定者、シェフなど多様ですが、どんなステークホルダーも単一で課題を解決することはできません。異なる立場や専門性を持つ人々が連携し、ともに変化を生み出すこと。いわゆる「コレクティブ・インパクト」[11]こそが、海の課題を解決すると信じています。
─ そうした考えを持つ二社が、パートナーシップを結び、VCファンドを立ち上げるに至った経緯はどういったものだったのでしょうか?
サガール:Beyond Impactは、次世代フードシステム、革新的バイオ由来原料、アドバンスト・ニュートリション(高付加価値栄養素材)[12]、バイオ由来化粧品原料といった分野に、深い知見と投資実績を持っています。いずれも、化学合成・動物由来の原料を、自然由来のソリューションへと展開していく領域です。この中で、重要でありながらも私たちが十分な専門性と経験を持ち合わせていなかった領域が海であり、以前から海にフォーカスした取り組みに着手したいと考えていました。ただ、私たちは少人数のチームで、リソースにも限りがあります。そうした条件下で、海の分野に本格参入するには、適切なパートナーが不可欠だと考えていたのです。
そんな中で、UMITO Partnersとの出会いがありました。UMITO Partnersは、海洋課題に対する深い知見を持ち、特にアジアの島嶼地域に強いネットワークを持っている点も、私たちが求めていたパートナー像と完全に一致していました。互いの強みを補完的に掛け合わせることで、ヨーロッパとアジアを繋ぐ強力なブリッジを築くことができる。そして、海洋という重要なエコシステムを、私たちのより大きな投資プラットフォームに接続していけると確信しました。
村上:先ほどお話ししたように、ブルーファイナンスへの参入を検討し始めていたときに、あるイベントでSagarと出会ったのです。直感的に、サガールとクレアから、インパクト投資にかける”本気度”を感じ取りました。そして、対話を重ねるほどに、このパートナーシップによって相互に学び合える関係性が築けていけるという確信が生まれてきました。
サガール:私たちは当然、人と人との相性についても重要視しています。これは私自身のスタイルですが、人との関係において”握手”は非常に大切で、法的な契約書と同じくらいの重みを持つ約束です。村上さんと握手を交わしたとき、この個人的で率直な信頼感が持てたからこそ、このパートナーシップはしっくりくると感じられました。特に、私にとって印象的だったのは、村上さんが全く異なるバックグラウンドからこの分野に参入しようとしていたという点です。UMITO Partnersを設立する以前から、長年にわたり漁業コミュニティと非常に近い距離感でかかわり、社会的・環境的インパクトと向き合ってきた。その経験からビジョンを拡張させていったというお話には、非常に心を動かされました。
イノベーターと漁業者が、信頼関係を築きながら協働できる未来
サガール:村上さんは、これまでの経験から、漁業者の未来をどのように考えていますか?
村上:繰り返しになりますが、漁業者は海のキーパーソンとして非常に大きな役割を担っています。私たちは、彼らを単に食料を供給する存在であるというだけではなく、国や食料の安全保障、文化の継承、そして地域コミュニティの結束においても欠かせない存在だと捉えているのです。将来的には、イノベーションによって、漁業の一部が代替される可能性はあるかもしれませんが、漁業者が代々受け継ぎ培ってきた知恵と経験は、一朝一夕に体得することのできない身体知であり、今後生まれてくる技術やソリューションに組み込まれていくべきものだと考えています。だからこそ、私たちはブルーファイナンスに参入しますが、これまで同様に漁業者に伴走するコンサルティングの取り組みも継続していきます。
サガール:イノベーションが起こると、多くの場合、人々はそこに不安や恐れを感じてしまいます。しかし、これらの技術は漁業者を代替するものではなく、可能性を広げるためのツールであるべきです。重要なのは、技術が中央集権的に扱われるのではなく、漁業コミュニティの中に分散型で展開され、新たなビジネスや機会を創出していくこと。イノベーターと漁業者との協働による進化というビジョンは、非常に現実的で、希望に満ちた未来の姿だと思います。
村上:漁業者自身も漁をするだけにとどまらず、すでに自らが保有している資源や知識にテクノロジーを掛け合わせることで、新たなビジネスを創出することもできるでしょう。私たちは、漁業とテック企業、それぞれが歩み寄り信頼関係を築きながら協働をしていくための橋渡しをしながら、新しい経済圏を作っていく。私たちがBFFを通じて回復させようとしているのは自然資本ですが、漁業者が長年にわたり育んできた文化資本もまた、その中に統合されていくべき価値だと考えていますし、そうした未来のあり方にとても関心があります。

サガール・タントン
Beyond Impact
これまでに2つのファンド設立に携わる。1つは、グローバル·インパクト投資機関Gray Matters Capitalが、2017年にインドで立ち上げた教育特化型アーリーステージ投資イニシアチブ〈edLABS〉。もう1つは、オーストラリア政府外務貿易省(DFAT:Department of Foreign Affairs and Trade)が支援する、政府開発援助の枠組みを活用した官民連携型の投資スキームとして知られるインパクトファンド。これらを通じて、アーリーステージのベンチャー企業18社への投資を主導してきた実績を持つ。
また、代替タンパク質や植物由来食品など食の未来を変革するイノベーションを推進する国際的非営利団体Good Food Instituteのインド支部およびAPAC(アジア太平洋)支部、世界各地で食領域のスタートアップ創出を支援するアクセラレーターFounders Institute Food APAC、そしてオランダ·アムステルダムを拠点にサステナブルファッション分野のイノベーションを牽引するプラットフォームFashion for Goodにて、メンターを務める。
さらに、ジェンダー·レンズ投資(女性のエンパワーメントや男女格差の解消を投資判断の軸に据える投資手法)をグローバルに推進する国際的イニシアチブ〈2X Global Forum〉、および新興国·途上国の女性起業家やジェンダー·スマート·ビジネスへの資金供給拡大を目指す〈2X Ignite〉のアドバイザーとして、ジェンダー·スマート·キャピタルの世界的な拡大にも貢献している。

村上春二
UMITO Partners 代表取締役
サンフランシスコ州立大学にて自然地理学とビジネスを専攻。卒業後は、パタゴニア日本支社での勤務を経て、国際環境NGO Wild Salmon Center日本コーディネーターとしてサケの生態系保護に取り組む。その後、漁業や養殖業の持続可能性向上を支援する国際NGOオーシャン·アウトカムズの設立メンバーとして日本支部長に。2018年に株式会社シーフードレガシーと合併し、取締役副社長·COOに就任。2021年に「ウミとヒトのポジティブな関係をつくる」事業を展開するコンサルティング会社、株式会社UMITO Partnersを設立。
- [1]
Blue Frontier Fund[BFF]: UMITO PartnersとBeyond Impactが企画を進める海洋特化型インパクトファンド。B2Bフードテック、バイオテックを主とし、サブとしてオーシャンテック、クリーンテック、クライメートテックを投資テーマとし、欧州×アジアのクロスボーダー投資を実現するハイブリッドな運営体制を特徴とする。
- [2]
Beyond Impact:2017年にクレア・スミス(Claire Smith)が設立した欧州拠点のインパクトVC(ベンチャーキャピタル)。「kinder(よりやさしく)、cleaner(よりクリーンに)、healthier(より健康的に)」を投資哲学の3軸に掲げ、食料・素材・医薬化粧品・海洋バイオテックなどのディープテック領域に約30社近い企業への投資実績を持つ。ETFとVCファンドを合わせた運用資産総額は1億6,000万米ドル超。
- [3]
ETF(Exchange Traded Fund:上場投資信託):証券取引所に上場され、株式と同様に売買できる投資信託。Beyond InvestingのETFは、動物搾取や環境破壊に関与しない企業を選別・投資対象とし、ESG・インパクト投資の観点から設計されている。現在約1億3,300万ドル規模。
- [4]
SDGs 12番(責任ある消費と生産):国連が2015年に採択した「持続可能な開発目標(SDGs)」の12番目。製品の設計・製造・消費・廃棄に至るサプライチェーン全体における環境負荷の削減と、持続可能な資源利用を目指す目標。Beyond Impactの投資哲学の核となるテーマ。
- [5]
途上国におけるSDGs資金ギャップ:国連の「Financing for Sustainable Development Report」およびUNCTAD(国連貿易開発会議)の試算に基づく数字。SDGsを達成するために途上国全体で年間2.5〜4兆米ドル規模の資金が不足しているとされる。これは「課題解決に必要な投資」と「現在実際に行われている投資」の差を指す
https://unctad.org/publication/financing-sustainable-development-report-2023
- [6]
インパクト投資の市場規模(GIIN調査): GIIN(Global Impact Investing Network)の「Sizing the Impact Investing Market 2024」に基づく数字。インパクト投資の世界全体の市場規模は約1.571兆ドルに達したと推計される。この数字は*5の「必要額」とは別の概念であり、「現在動いているインパクト投資の総量」を示す。
https://thegiin.org/publication/research/sizing-the-impact-investing-market-2024/
- [7]
渋沢栄一: 明治・大正期の日本を代表する実業家・思想家(1840〜1931年)。「論語と算盤」という著作に象徴されるように、道徳と経済の合一(「道徳経済合一説」)を説き、約500社の企業創設に携わる。その孫・渋澤健氏はコモンズ投信の創業者として、ESG・サステナブルファイナンスの文脈で祖父の思想を現代に接続している。
参考文献(日本語版):橘川武郎・パトリック・フリデンソン 編著『グローバル資本主義の中の渋沢栄一――合本キャピタリズムとモラル』東洋経済新報社、2014年
参考文献(英語版):Patrick Fridenson & Kikkawa Takeo (eds.), Ethical Capitalism: Shibusawa Eiichi and Business Leadership in Global Perspective, University of Toronto Press, 2017.
- [8]
セオリー・オブ・チェンジ(Theory of Change): ある取り組みや投資が、どのような経路・プロセスを経て社会的インパクトを生み出すかを示す理論的な枠組み。因果連鎖とも呼ばれ、インパクト投資の評価においては投資案件の論理的整合性を検証するための必須要件とされる。
- [9]
LCA(ライフサイクルアセスメント): 製品・サービスの原料採取から廃棄に至る全過程における環境負荷(CO2排出量・水使用量・土地使用量等)を定量的に評価する手法。Beyond Impactでは気候関連スタートアップへの投資判断の際に使用する。
- [10]
ダイベスト(Divest/ダイベストメント): 投資先の事業や行動が当初のインパクト要件を満たさなくなったと判断した場合に、投資を撤退・売却する行為。Beyond Impactでは、投資契約内にダイベスト条項を設けることで、投資期間を通じたインパクトの健全性(インテグリティ)を担保している。
- [11]
コレクティブ・インパクト(Collective Impact): 異なるセクター・組織が共通のアジェンダのもとで連携し、単独では解決できない複雑な社会課題に取り組む協働アプローチ。2011年にJohn KaniaとMark Kramerが提唱(Stanford Social Innovation Review)。
- [12]
アドバンスト・ニュートリション(Advanced Nutrition): 機能性・生物利用率・安全性などの観点から付加価値を高めた栄養素材の総称。従来の動物性・化学合成由来の原料に代わり、微生物発酵、精密発酵、海洋生物由来バイオテクノロジーなどを活用して製造される次世代の栄養成分を指す。食品・サプリメント・機能性食品・医薬品などの分野で需要が拡大しており、Beyond Impactの中核的な投資テーマの一つ。