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2024/06/04 -

【OCEAN TO TABLEのSTORY】信頼できる、水産業を目指して。新しいフードシステムの確立への挑戦。

私たちが食べている魚は、どこからきたんだろうーー。

世界中では、IUU漁業と呼ばれる違法漁業が多く残っています。IUU漁業とはIllegal, Unreported and Unregulated漁業、つまり「違法・無報告・無規制」に行われている漁業のこと。乱獲や密漁などが当てはまり、海洋環境の悪化の大きな要因にもなっています。

そんなIUU漁業の対策において、大切なのがトレーサビリティ。漁場から食卓までの流れを透明化することを目的に、2020年、私たちUMITO Partnersは東京湾に面する千葉県船橋港でスズキ漁を行う大傳丸・中仙丸、海光物産と複数の企業とともに「Ocean to Table」協議会を立ち上げました。

「Ocean to Table」とは、日本で初めて、高度なIT技術であるブロックチェーン技術が用いられた漁獲地点から食卓までの流通経路がわかるトレーサビリティシステムの構築プロジェクトのこと。取り組みの経緯と、それにより生まれた変化について、千葉県船橋漁港で鮮魚卸を行う海光物産 (株) の代表取締役社長兼東京湾で中型まき網漁船 (株) 大傳丸で長年漁労長として勤めた大野和彦さんと、昨年大傳丸の4代目として後継した弓削田亮さん、そして大傳丸とサステナブル漁業プロジェクトにて協働する中型まき網漁船 (有) 中仙丸の後継者である中村晃大さんへお話を伺いました。

■ より信頼できる水産業を目指す、Ocean to Tableの取り組み。

食料品店で”顔の見える農家”として生産者が紹介されることも増えた農産物に比べて、現状の水産物はサプライチェーンが長く、関わる人も多いため、トレーサビリティを実現しづらいのが現状。その状態を改善するためスタートしたトレーサビリティシステム「Ocean to Table(以下O2T)」は、ブロックチェーンと呼ばれる高度なIT技術を用いることで、漁業者の収入安定化や水産資源の高付加価値化、そして資源管理の高度化につながる取り組みです。

ブロックチェーンとは、従来の中央一元管理の体制とは異なり、分散型管理としてステークホルダーそれぞれがお互いに管理し合う形で成り立たせる仕組みのこと。この技術を用いることでプロセスやデータの改竄が防げるため、トレーサビリティの実現に近づくのだそう。

「私たちはサステナブル漁業プロジェクトに取り組むなかで、自主的資源管理のため船上で日々タブレット端末を使い漁獲情報の記録をつけています。数字だけじゃなくて、産地まで誤魔化す人だっているなか、ブロックチェーンを用いればみんなでデータ管理ができるので、信憑性が増すんですよ」

と、大野さんは話します。もともとアメリカでブロックチェーンを活用したトレーサビリティシステム”IBM Food Trust”を展開するIBM社から、日本の水産物でも実装できないかとUMITO Partnersに声がかかったことをきっかけに、海光物産・大傳丸・中仙丸に加えて複数のIT企業とともにスタートしたO2T。このプロジェクトにおいて「江戸前フィッシュパスポート」と称して、魚ひとつひとつに、いつ・どこで・誰が漁獲したか、お客さんの手元にどのように届いたかをアプリ上で確認できるQRコードをつけて流通させたり、大野さんら漁師自ら魚屋の店頭にたって対面販売を行うなど、様々な方法でトレーサビリティの実現を目指してきました。

■ 一筋縄ではいかない、日本の水産業におけるトレーサビリティの実現

しかし、システムを用いるO2Tには費用や作業の負担がかかるなど課題が多くあったといいます。

「他社でもシステム開発は進んでいますが、データ管理の難しさと現場での再現性の低さゆえに一筋縄ではいきません。

日本には世代や大きさによって名前が変わる出世魚や地域によって呼び名が変わる魚が多くいるので、魚種名をデータ化することが難しい。それに、まき網漁業や一本釣りなどの漁法によっても現場の実態が異なるので、システム化して再現性をもたせることが難しいなと感じています。」

トレーサビリティが浸透しているアメリカなどでは漁法も魚種も限られていてシステム化しやすいこと、そして、買い手や市場の意識の高さが拡大を後押しする要因になっているのだそう。

「日本では労力もコストもかかる一方で、その負担は漁業者が負うことになります。その分を販売価格に上乗せすると、そもそも魚離れ、魚が高いと言われている経済状況の中で買う消費者がいるのか?という不安があります。この状況下でのトレーサビリティの実現は、非常に難しいなと感じています」

このような状況下でもトレーサビリティの実現の必要性は変わらずあると、後継者の弓削田さんと中村さんは言います。

「実現が難しいから諦める、ではいけない。お店での対面販売でも感じましたが、買い手は”おいしさ”や”鮮度”のいいものを求めています。僕たちはそれにつながる本当の理由を知ってもらいたいし、誰が獲ってどうやって届けられているのかについても目を向けてもらえるようにしたいです」

■ 多角的に、長期的に。少しずつ広がるトレーサビリティ。

トレーサビリティを実現する方法は、O2Tだけではありません。例えば、自社の商品開発。海光物産では、スズキの他にもコノシロなどの東京湾で獲れる低利用魚を使って加工品を作っているのだそう。

「釣った魚をただ流通に流すのではなく、漁師自身の言葉で届けていかなくてはいけません。海に魚が少なくなってきているとは言われますが、東京湾にはまだまだ豊かな資源があるということを知ってもらったり、船橋産の魚を食べてみたいと思ってもらうことはとても大切です。商品開発はそのためのひとつの手段だと思っています。」

中村さんは、O2Tや商品開発などの取り組みを通して、自身や周囲の乗組員の意識にも少しずつ変化があったといいます。さらには、全国の漁師も刺激を受けて受けているのだそう。O2T自体にも関わった小売店が事例共有で講演の依頼を受けたりなど、成功事例として少しずつ認知され広がりを見せてきています。安心安全をはじめトレーサビリティに意識を向ける買い手も少しずつ増えていく中で、売り手側も需要と共有をつなげていく方法も考えていかなければなりません。

多角的かつ長期的な取り組みが必要になる、水産業におけるトレーサビリティの実現。既存のフードシステムの見直しとO2Tに続く新しい取り組みが、未来に向けて少しずつ、始まっています。


■ライター プロフィール

執筆:盛岡絢子
foodam / FOOD&COMPANY N.E.W.S PROJECT 主宰

兵庫県神戸市出身。大学/大学院では農学部作物学専攻でイネの研究を行う。卒業後、株式会社リクルートにて人材に関するコンサルティング/制作業務に従事したあと、日本の全国の食文化と生産現場にまつわるストーリーを届けるため、東京を拠点にグローサリーストアを展開する「FOOD&COMPANY」にてコミュニケーションディレクターを務めたあと、現在は同社の他にもライティングや編集、商品開発などを通して、様々な生産者や産地の魅力を発信する。

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