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2024/04/17 - サステナブル漁業プロジェクト

【東京湾スズキ サステナブル漁業プロジェクトのSTORY】日本における、サステナブルな漁業とは。100年続く東京湾スズキ漁業への挑戦。

東京という大きな消費地からほど近い場所に位置する、千葉県の船橋漁港。春にはコハダ、夏にはスズキ、秋冬にはコノシロがとれる豊かな漁場としても知られ、なかでもスズキは千葉県全体で水揚げ量全国1位で取扱量は全体の3/4を誇り、その多くはこの船橋漁港で水揚げされています。

「私が船に乗り始めた40年ほど前に比べると、多様性は無くなってきたように思います。」

そう語るのは、船橋市で40年以上の漁師歴をもつ中型まき網船団「大傳丸」網元三代目の大野和彦さん。これまで漁獲量をコントロールしてきたこともあり、昨年の水揚げ量はまずまずの結果だったのだそう。

大野さんがサステナブルな漁業の実現を目指し始めたのは、2015年ごろのこと。漁師だったお祖父さんにもらった「良い漁師ってのは、いかに少なく獲ってそれを稼ぎにするのがうまい人」という教えを受け継ぎ、江戸前漁業を100年先もサステナブルにしたいという思いで、2016年に日本初のMSC認証取得を目指すサステナブル漁業プロジェクト(FIP)がスタートさせました。

サステナブル漁業プロジェクトを通してどんな取り組みを行ってきたのか、そしてこれからどう取り組んでいくのか。東京湾でスズキ漁業を営みながら、船橋で鮮魚の販売と物流を行う海光物産(株)を経営される大野和彦さんと、昨年大傳丸の漁労長として後継した弓削田亮さん、そして大傳丸と同プロジェクトにて協働する中型まき網漁船 (有) 中仙丸の後継者である中村晃大さんへお話を伺いました。

大傳丸・海光物産 大野和彦社長(写真提供:海光物産株式会社)

■ MSC認証取得を目指して、日本初のサステナブル漁業プロジェクトがスタート

きっかけは、2020年の東京五輪。

海光物産のブランド「瞬〆すずき※」を世界にPRする絶好のチャンスだと捉えて動き始めたものの、オリンピックにおける調達基準にはMSC認証などを取得した持続可能性が担保された水産物であることが必須と判明。そこで、2015年にMSC認証取得のための予備審査を受けましたが改善を求められ、2016年に日本初の認証取得を目指したサステナブル漁業プロジェクト(FIP)をスタートしました。


※瞬〆すずき:海光物産のオリジナルブランド。東京湾でとれた厳選されたスズキは、水揚げ直後に活〆(放血)・神経抜き処理を施すことにより死後硬直を遅らせ、鮮度とおいしさを長く保ちます。スズキを1匹1匹丁寧に扱うことで、魚が本来持つ価値を最大限に引き出しています。
スズキ漁期中の5月〜11月は夜通しで操業を行う。

「最初は現状を知るため、漁獲量のデータ取りを実施。売り先と相談して必要以上に獲りすぎないように漁獲量をコントロールし、網を小さくしたりするなど工夫を行ったそう。データは月に1度アメリカのNGOに送って、MSC認証取得のためにフィードバックをもらっていました。」

開始当初は手で記録していましたが、より細かいデータ記録のため、IT企業にアプリ制作を依頼したのだそう。2年かかってやっと完成し、現在はそのアプリによって記録を行っています。

さらに、データ取得を続ける中で見えてくる情報をもとに、大傳丸と中仙丸は共通の漁業のルールを策定。25cm以下の魚が網にかかったら放流する、スズキの産卵期の11月下旬から2月末まではスズキが網に入っても放流する、2月は1ヶ月間自主的に休漁する、などといった独自の資源管理計画をまとめて作成し、MSC認証の取得を目指しました。

私たちUMITO Partnersは、こうしたプロセスの中で、科学的な知見と国内外のネットワークを活かし、MSC予備審査によって特定された課題解決のための活動計画の策定・実施、そして漁獲データのDX化、全体的なプロジェクト管理などを行っています。

■ MSC認証取得にとらわれない、より本質的な「100年続く漁業」の実現を目指すプロジェクトへ

漁船上で退団する大野社長と有名シェフ ジェローム・ワーグ氏

しかし、MSC認証取得を目指してプロジェクトに取り組むものの、そのプロセスには課題がたくさんあったそう。日本の漁業においてMSC認証取得がなかなか進みづらい要因を大野さんはこう話します。

「MSC認証取得のためには、自分たちだけでなく、同じ場所で同じ魚を獲っている漁業者、漁協や行政、そして魚を食べる消費者を含む市場の協力が必要です。」

当時、千葉県ではスズキの資源評価は進んでおらず、なかなか他のステークホルダーの協力を得ることが難しいのが現実でした。そもそも日本の管理方法が、認証基準を満たすようにつくられていないというのが最も大きい要因だと、漁業コンサルタントとして伴走したUMITO Partners・村上は言います。

「日本の沿岸漁業で認証取得をしようとすると、圧倒的にデータが足りません。データ収集やその管理には同じ魚を獲っている他の漁師さんたちとの合意形成が、非常に大切な一方で難しいのです。その音頭をとるのは行政なので、そこから変えていかなければいけない、と思っています。」

例えば北太平洋の北部に位置するアメリカ合衆国アラスカ州では州政府がトップダウンで管理をしており、同時にサステナブルな漁法に反応する市場も醸成されています。このため、認証取得をしたいと思う人や実際に取得する人も増えています(参考:MSC年次レポート2022年度)。一方で、国内では、認証に対する認知が低いのが実情です。

海光物産 船橋漁港営業所(写真提供:海光物産株式会社)

「日本の生活者にとっても認証があればいい、というわけではなくて。日本ではまだまだ認証マークへの理解は広がっておらず、認証マークが商品につければ売れるというものでもないですよね。認証取得には費用もかかるし、認証基準を無理やり当てはめるよりは、次の世代の仲間とともに、少しずつでも100年漁業に近づいていけるようにしていきたいと思っています。」

そうして、MSC認証取得を目指すプロジェクトから、より本質的な「100年続く漁業」の実現に向けて動いていくサステナブル漁業プロジェクトとして続けることになりました。現在ではこのプロジェクトからの働きかけで行政が動き出し、大傳丸・中仙丸の漁獲データを用いたスズキ資源評価の精度を上げる動きが始まりました。2020年には漁業法も改正され、日本全国を回遊する指定魚種に対して漁獲量の上限を設定して乱獲を防ぐ取り組みも始まっていますが、大野さんたちが獲るスズキは対象外となっています。

■ 未来に向けて、途絶えさせない。次世代につなぐ江戸前の魚文化

冷凍瞬〆フィレ(写真提供:海光物産株式会社)

「これからは魚を獲るだけではなく、売り方や届け方も考えないといけないですよね。漁業法が改正されたとはいえスズキは指定魚種対象外なので、国や行政ではなく、自分たちが持続性を意識した漁業を続けていかなければいけません。」

と大野さん。現在は、都市型漁業だからこそできることを考えているといいます。

「魚を食べる生活者や市場が近いからこそ、地元の子どもたちに向けた食育には力を入れています。学校で授業をしたり、給食にスズキを提供したり。本当においしい旬の魚を食べることで、海に行ってみたいと思ってもらいたいんです。実際に海に来て、船橋に海やおいしい魚があってよかったと思ってもらうことこそが、持続可能な社会を作っていくんじゃないのかなと思います。」

地元船橋の小学校で開催する食育授業の様子(写真提供:海光物産株式会社)
船橋の漁業に関する授業を漁師自ら提供(写真提供:海光物産株式会社)

そして、これからスズキ漁とサステナブルな漁業への取り組みを継承していく弓削田さんと中村さんはこう続けます。

弓削田さん(右)、写真提供:海光物産株式会社

「僕が船に乗り始めてすぐにサステナブル漁業プロジェクト(FIP)の取り組みが始まったので、資源管理やデータ記録をすることが当たり前でした。消費者としても、どのような経路を経て消費者に届くまでがわかる「トレーサビリティ」(O2T原稿リンク)の側面から透明性のある方がやっぱりいい。手間がかかるので大変なこともあるけど、次世代のことを考えたら今自分たちがやっとかなきゃいけないなって。時間はかかりましたが、僕よりも漁を長く続けている先輩たちも理解してくれていますよ。」

中村さん(右手前)、写真提供:海光物産株式会社

「これからの100年にどうやって繋げていくかを常に考えて、この取り組みを続けて、漁業者をはじめ、漁協や行政、消費者のみなさんなど周囲にも取り組みや理解を広げていきたいと思っています。」

環境の変化の影響も大きく受ける、漁業。「今」や「自分たち」のことだけではなく、100年先の未来のことを考えて取り組んでいくことこそが、求められています。


■ライター プロフィール

執筆:盛岡絢子
foodam / FOOD&COMPANY N.E.W.S PROJECT 主宰

兵庫県神戸市出身。大学/大学院では農学部作物学専攻でイネの研究を行う。卒業後、株式会社リクルートにて人材に関するコンサルティング/制作業務に従事したあと、日本の全国の食文化と生産現場にまつわるストーリーを届けるため、東京を拠点にグローサリーストアを展開する「FOOD&COMPANY」にてコミュニケーションディレクターを務めたあと、現在は同社の他にもライティングや編集、商品開発などを通して、様々な生産者や産地の魅力を発信する。


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