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2023/10/19 - サステナブル漁業プロジェクト

【北海道・苫前 小笠原宏一さんのSTORY】漁業も地域もずっと元気に。一人の漁師が踏み出した、サステナブルな漁業への道。

〜ミズダコのサステナブル漁業プロジェクトの5年間〜

北海道の北西部、留萌管内に位置する苫前町。2700人が住む小さな町は農業と漁業が盛んで、この土地にふきこむ強い風を利用した風力発電が有名です。なんと、そのエネルギー自給率は500%以上。厳しいながらも豊かな自然と人が共生する地域です。

この地で生まれ育ち、ミズダコの樽流し漁を行う漁師・小笠原宏一さん。樽流し漁はミズダコの漁法のひとつで、手作りの漁具をつけた樽を潮に流してタコを獲る、シンプルながら技術が必要な伝統的な漁法です。

小笠原さんはそんな樽流し漁を通して「サステナブルな漁業」を実現するために、2019年に町内の27人の漁師とともに『ミズダコのサステナブル漁業プロジェクト』をスタートしました。

小笠原さんはなぜ、サステナブルな漁業を目指して立ち上がったのか。そして、これから先にどんな未来を描くのか。 このプロジェクトをサポートしてきたUMITO Partners の代表・村上が、小笠原さんにお話を伺いました。

■対談者

話し手: 北るもい漁協苫前支所 苫前いさり部会部会長 小笠原 宏一(おがさわら こういち)さん

北海道苫前町出身。高校を卒業後、漁師である父の怪我をきっかけに漁師の道へ。現在は父とともにミズダコの樽流し漁法を中心に、タコ箱漁の他、主に刺し網でニシンやカレイなどの漁を行う。2017年にUMITO Partnersの村上と出会い、サステナブルな漁業の実現と漁師コミュニティーの活性化を目指してミズダコのサステナブル漁業プロジェクトをスタート。

聞き手:UMITO Partners 代表 村上春二

福岡県出身。サンフランシスコ州立大学にて自然地理学とビジネスを専攻。パタゴニア日本支社で勤務及びフリーランスライターとして活動し、米国に所在する国際環境NGO Wild Salmon Centerの日本コーディネーターとして勤務。その後国際環境NGO オーシャン・アウトカムズ(O2)設立メンバーとして日本支部長に就任。同組織は2018年にシーフードレガシーと合併し、取締役副社長/COOとしてサステナブルな漁業・地域・事業を創出する。2021年自らが代表となりUMITO Partnersを設立。漁業者・企業・シェフ・自治体などと連携し、サステナブルな漁業や地域のために伴走する。

若い漁師の熱量からスタートした、サステナブルな漁業への挑戦

小笠原さんが『ミズダコのサステナブル漁業プロジェクト』をスタートしたのは、2017年のこと。UMITO Partners代表の村上との、苫前のとある居酒屋での出会いがきっかけでした。

小笠原さん:
当時、苫前町の漁業は、高齢化、担い手不足、そして漁獲量の減少などの地域課題が山積みでした。僕は高校を卒業してすぐに漁師になりましたが、いざ働きはじめると、漁港にも漁村にも活気がないように感じられて。生まれ育った大好きな苫前町が、昔みたいに子どもたちの笑い声が響き渡るような、元気な漁村に戻るといいなと思ったんです。そのために何かしたいけど何をしたらよいか分からない、そんな時に僕と同じ北るもい漁協に属する、尊敬する先輩が村上さんを紹介してくれました。

村上:
「その時、小笠原さんからは苫前町を元気にしたいんだという思いを強く感じました。日本全国の漁村をみていると苫前町と似た課題を抱える地域も多く、日本各地の取り組みや、世界や日本の海の状況について話しました。

小笠原さん:
村上さんの話を聞いて、海にいる魚の数が減っていることを知りました。苫前を元気にしたいと思っても、海に魚がいなければ漁ができず、漁村の元気もなくなっていく。このままでいいのか?と、とても不安になったのを覚えています。
僕たち漁師は地元に根付いて漁をしているからこそ、外の情報があまり入ってきません。みんないつまでも海に魚がいると思っていて、実際に海にどのくらい魚がいるのかを知らない。今はまだ魚がいるからいいけれど、いなくなってからでは遅いんです。その時から、僕自身がサステナブルな漁業を実現しなくては、と考えるようになりました。

地域を巻き込む「ミズダコのサステナブル漁業プロジェクト」のはじまり

地域が元気になることを目指して、苫前の漁業をサステナブルにするーー。小笠原さんの思いをUMITO Partnersがサポートする形で、ミズダコのサステナブル漁業プロジェクトがスタートしました。

村上:
「まずは、苫前の海にいるミズダコについての現状把握からスタートしました。十分にミズダコがいるのか、どのくらいまでなら漁獲しても影響がないのか。十分にいない場合は、どう対応したらいいのか。専門家である稚内水産試験場からもアドバイスをもらいながら、現場で実際に漁師たちが対応できる範囲での記録を進めました。
記録するのは、操業毎の漁獲したミズダコの尾数、重量、サイズ、操業日数、紛失した漁具の数などです。そしてミズダコの数がある一定数を下回った場合は漁獲しない、という共通のルールを定め、それに則って漁業を行います(=資源管理)。同時に、漁師が記録したものを漁協がまとめてUMITO Partnersがデータ集積を行い、その年のCPUE(Catch Per Unito Effort:漁獲努力量あたりの漁獲量を指し、操業1日1隻あたりの漁獲量を意味する)を推定します。その結果は年に一度漁業者や漁協の方々に報告しています。」



正確な現状把握のためには、小笠原さんだけでなく、地域の漁師みんなで力を合わせて記録をとり、資源管理を行うことが必要です。スタート時点では、周囲の理解を得るのが本当に大変だったそう。

小笠原さん:
大半の人は納得してくれましたが、今(タコが)獲れているのにやる意味がわからない、という人もいました。中には “村上さんに騙されているんじゃないの?”と心配する人も出てきました(笑)。全員の合意を得るために説明会や勉強会を行いましたが、それでも反対する人もいて、最終的にはひとりひとりの家に訪問して説得を試みました。向かい合って話すことで「分かったよ」といって合意してくれましたが、合意を得るまでに2年はかかりましたね。

村上:
どんな話をして、説得したんですか?

小笠原さん:
最初は資源管理というと『タコを獲り過ぎないためには漁獲量を減らさない』といけないというマイナスのイメージを抱いていた人もいたのですが、そうではなく、これから100年後も苫前の町や漁業が元気でいるために、今データを残しておくことが必要なんだと伝えました。
一方で、ミズダコ漁を生業にする以上、生活への影響が気になるのも事実です。しかし、それも含めて、今のことだけではなくて未来のことを考えて漁業を行うことが、漁師の、苫前町の地域の価値向上につながるんだ、という話をしました。実際に、このプロジェクトをはじめてから徐々に、地域外の方にも評価されるようになってきていると感じます。

村上:
地域を巻き込んでいく時に、心が折れかけたことはありますか?

小笠原さん:
会議にひとりも人が来ない、とか(笑)。話を聞いてもらえないことに心が折れかけました。でも、一歩、地域の外にでて同じ志をもつ漁師仲間やUMITO Partnersのみなさんや村上さんに会うことで、また熱量が戻ってくる。頑張ろうって思えるんです。村上さんも、大変でしたよね。」

村上:
私は、小笠原さんが地域を説得する際に必要な材料をあつめて資料にしたり、伝え方の相談に乗ったりする役割を担っていました。自分も、苫前町や漁業の未来について愛を持って本気で考えているけど、苫前町に住んでいるわけではないからなかなか自ら動くことはできません。その時にサポートするのが私たちUMITO Partnersの役割ですが、実際に小笠原さんと漁協に企画書を持っていって説明も聞いてもらえず跳ね除けられた時は、私も心が折れそうになりましたね。

変わるために、自ら動く。プロジェクト成功のためのもう一つの挑戦

小笠原さんの働きかけの末、地域の合意を得たミズダコのサステナブル漁業プロジェクト。それと並行して、小笠原さんは自身の活動を知ってもらうために発信を行ったり、消費者への直接販売を行ったりしています。

小笠原さん:
3年ほど前にYOUTUBEを始めました。チャンネル名は『漁師たこーいち/北海道のひだりうえ( https://www.youtube.com/@tako-ichi/featured )』です。正直、大変なので辞めたいといつも思っているのですが(笑)、意外と反響があって。
苫前町の漁業のことを知ってもらうことはもちろん、自分が苫前町の外で行っている活動、例えば地域外の同志のことや東京視察などを、苫前の人に見てもらうことで外の世界を知ってほしい、という気持ちが強いです。
ミズダコの直販(https://inakablue.jp/)も行っているんですが、それはYOUTUBEを見た道外の方から “直接ミズダコを買うことはできないか?” と言われてスタートしました。通常は漁協を通して販売するので、どんな人が食べてくれるのかを知ることはできないのですが、直販だと鮮度や味の感想、取り組みへの共感の声をもらえたりして、新しい発見がたくさんあります。周りにも“自分もやってみたい!”という漁師が出てきたことはとても嬉しいです。

小笠原さん:
このプロジェクトを続けていくために、次はミズダコの価値をあげていくことが必要です。少ない量でも価値のあるものを届けることで、僕たちは収入を保つことができます。漁師は漁をするのは得意だけど、売ることは得意じゃない人も多い。それに、漁をした後に作業をするのは時間的にも体力的にもやっぱり難しい。今後、同じ志を持った漁師の海産物をより多くの人に届けられるように、海産物の販売にも注力していきたいと思っています。

小笠原さんとUMITO Partnersが見据える、漁業の未来

苫前町でプロジェクトが始まって、早5年。苫前町はサステナブルな漁業の実現に向けて大きく舵をとっています。プロジェクトを通して、小笠原さんとUMITO Partnersが目指す未来とは?

小笠原さん:
「資源管理を行い乱獲を防ぐことで、ミズダコの量が増えてきました。こうした前向きな変化に興味を持ってくれる漁業者も増えています。今は苫前町の地域だけで自主的に行っているプロジェクトなのですが、これを公的なものにして、もっと広い、北海道るもい地区全体で資源管理を行うことを目指しています。

小笠原さん:
「苫前町の漁業をサステナブルにしたいという思いはもちろんありますが、その根底にあるのは生まれ育った大好きな町を元気にしたい、そして、100年後もおいしいタコを食べられるようにしたい、ということ。その思いはずっと変わりません。海はひとつながりだからこそ、苫前町だけでなく地域同士が一丸となって取り組むことが必要です。
僕は、このプロジェクトを通して、日本にはサステナブルな漁業を目指して奮闘する素晴らしい漁師の方々がいることを知りました。自分の活動に興味を持ってくれる漁師が増えたことをとても嬉しく思います。成功体験の積み重ねが、僕も含めて漁業に関わる人々や地域のモチベーションにつながるので、これからも諦めずに頑張っていきたいです
。」

村上:
「小笠原さんが“サステナブルな漁業の実現を目指す漁師”として少しずつ周囲や世間から評価されるようになり、同志として動いている私たちUMITO Partnersも報われます。それでも、まだまだこれからです。サステナブルな漁業の実現が、どんな形で漁業全体や地域に貢献できるのか。時間はかかりますが、必ず成果に結びつく日がくると信じています。



小笠原さんの思いと、苫前町の思いを、未来につなぐ。小笠原さんとUMITO Partnersの挑戦は、これからも続きます。

(取材・執筆:盛岡絢子 )

北海道苫前町ミズダコ 樽流し漁 サステナブル漁業プロジェクトの詳細はこちら

■ライター プロフィール
執筆:盛岡絢子
foodam / FOOD&COMPANY N.E.W.S PROJECT 主宰

兵庫県神戸市出身。大学/大学院では農学部作物学専攻でイネの研究を行う。卒業後、株式会社リクルートにて人材に関するコンサルティング/制作業務に従事したあと、日本の全国の食文化と生産現場にまつわるストーリーを届けるため、東京を拠点にグローサリーストアを展開する「FOOD&COMPANY」にてコミュニケーションディレクターを務めたあと、現在は同社の他にもライティングや編集、商品開発などを通して、様々な生産者や産地の魅力を発信する。

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